『Love Sick』
 
 

  君だから見ていた

  君じゃなきゃ好きにならない

  君だから憎めなかった

  ―――君だから…愛した

 
 
 

「それで?」

 問い掛けてくるのは、いつもより笑顔な不二。

 その笑顔とは反対に、機嫌はかなり悪そうだった。

「それでと言われても……」

 俺は不二の微笑みに怯んでしまい、すぐには言葉を返せない。

「最近、君が大好きなテニスを疎かにする理由を、僕は聞きたいんだけど?」

「だから、そんなつもりは無いと…さっきから言っているだろう?」

 さっきから、この問答の繰り返しだ。

 
 

 部活後の自主錬を終えて部室に戻ってくると、待っていた不二に捕まった。

 着替えることすら許さずに、不二は唐突に話しを切り出した。

『ねぇ、手塚。最近なにかあったの?いつもの君じゃないみたいだよ』

 予想もしていなかった問いに、俺は困惑するだけだった。

 ―――自分では、いつもと変わっていないと思っている。

 生徒会業務も遅れず進行させているし、部長の仕事も大石に頼っている部分があるとはいえ、

 こなせていると自負していた。

 だからこそ、俺には不二の言っている言葉の意味が理解できずにいた。

 
 

「……自分の走りこみで精神統一ばかりして、練習は大石や乾に任せている。

君の場合、無意識だから性質悪いんだよね」

 呟くように言われた言葉で、俺はここ一週間の自分の行動を思い返す。

 言われてみれば、先生がいらっしゃらないときは、ただひたすら走っていた気がした。

 しかし、何の為に走っていたのかがよく分からない。

 スタミナをつけるためだけにしては、運動量が多すぎる。

 一体、俺は何を考えて走っていたんだ??

 眉を顰めて考える俺を見て、不二は大きく溜め息をついた。

「本当に、今まで気付いてなかったんだね。ある意味尊敬するよ」

「…どういう意味だ?」

「別に。自分の心に他人が侵入したことにも気付かないなんて、

手塚って本当に鈍感なんだなぁって、改めて感心しただけ」

 にっこりと笑う不二の言葉に、俺は更に眉を顰めることになった。

「……何が言いたいんだ?」

 俺には不二の言っていることが、全く理解できない。

「先週だったよね?確か。偶然コートの近くで跡部に会ったのって……」

 そう言われた途端、俺は何故か心臓が跳ねるような感覚を覚えた。

「―――跡部と手塚って、よく似ているよね。もちろん性格は全然違うけど、本質的にね。

才能がある者は才能のある者を愛す…ということなのかな?」

「何を、下らない事を言っているんだ。いい加減、帰り支度をさせてくれないか?」

 不二が何を言っているのか、何を言いたいのか……

 俺は、何故か否定していた。

 分かりたくなかった…聞いてはいけないと思った。

 
 
 

「だって手塚は跡部が――なんだろ?」

 
 
 

 不二の言葉が身体中を駆け巡る。

 俺はなんとか平静を保って、不二を見返した。

 クスッとからかうように笑った不二は、まっすぐ俺を見つめる。

「そんなに動揺しなくていいじゃない。事実なんだから」

「動揺などしていない。……何が事実だ。そんなこと、あるわけない」

 俺は、何でもないことのように反論するのが精一杯だった。

 どうして俺がこんなことになっているのか、分からないし、知りたくも無かった。

 そんな俺をじっと見て、おもむろに不二が口を開く。

「……何をそんなに否定したいの?跡部に嫌われること?それとも、手塚自身?」

「だから違うと言っている。俺は跡部を―――?!」

 反論しようとした俺は、途中で口を閉ざすことになった。

 突然前触れも無く部室の扉が開いたからだ。

 そして、扉を開けた人物を見た瞬間、目を疑わずにはいられなかった。

 こんな時間に、そしてこんな場所にいるはずのない男の姿がそこにはあった。

「跡部……?」

「よぉ、邪魔するぜ」

 尊大な態度で部室に入ってきたのは、紛れも無く氷帝の部長・跡部景吾だ。

 心に広がる、知らない気持ちを押さえて俺は跡部を見る。

「部外者が立ち入り禁止なのは分かっていると思うが?」

「あぁ、知ってるぜ?だが、俺はそこの不二に呼ばれてココにいるんだがな?」

「不二に?」

 跡部の視線につられるように不二を見ると、

 相変わらず微笑みを浮かべたままのポーカーフェイスだった。

「どういうことだ?」

 眉を顰めて尋ねると、さらに笑顔を浮かべる。

「本来なら人の恋路に口を挟みたくはないんだけど、手塚じゃ誰かが介入しないかぎり、

まとまる可能性0に近いから。それに、はっきりさせたほうが青学の為だと思ってさ」

「だから、さっきから言っているだろ?俺は……」

 言い募ろうとした俺の言葉を、跡部の声が遮った。

「手塚、この間の返事を聞かせてもらおうか?」

「!!」

 その言葉に、俺は跡部を睨みつけた。

「……さて、僕はもう帰るよ。手塚、また明日ね」

 小さく溜め息をついた不二は、バックを持ち部室から出て行こうとする。

「ちょっと待て……」

「何?」

 跡部の少し前で立ち止まり、不二は俺のほうに振り返った。

「さっきの質問は、跡部が来るまでの時間潰しか?」

「そんなわけじゃないのは、手塚自身が一番分かっているだろう?……じゃね、跡部」

 そう言うと、いつもの微笑みを浮かべ不二は部室を出ていった。

 
 
 

 無駄に時間がどれくらい流れただろうか。

 本当は不二が出ていってから、数分も経っていなかったのかもしれない。

 しかし、俺はこの沈黙に耐えきることが出来ず先に口を開いた。

「……用事がないなら出て行け。部外者は立ち入り禁止だ」

 いかにも不機嫌そうな跡部の声が、間髪入れずに返ってくる。

「用事ならさっき言ったはずだ。この間の答えを聞かせてもらおう」

「答えなら、あのとき言ったはずだ」

 俺が睨みつけたままそう答えると、跡部は薄く笑った。

「確かに聞いたが、あれがお前の本心だとは到底思えないけどな」

 また心臓が跳ねる感覚に襲われる。

 狭い部室で、小さな机が隔てただけの短い距離が、今の俺には辛かった。

 ただ、どうしてそう感じるのかが、未だに理解出来ずにいる。

 この不安定な感覚は、今まで一度も味わったことがない。

「もう一度言う。お前は俺の隣に居るべき存在だ。俺の隣に来い」

 強引というよりも、唯我独尊的な物言いをされ、素直に頷くヤツがいるだろうか?

「だから、この前も言っただろう?俺は青学の部長だ。氷帝に……」

「ハッ!くだらねぇ…そんな狭い話しをしているわけじゃねーよ。お前は、

俺と共に頂点を目指すべきだ。中学とか、そんな小さなレベルじゃない。テニス界の頂点をな」

「俺と一緒にアメリカに来い」

 自信に溢れた跡部の瞳を見つめられ、俺はすぐに返事ができない。

 アメリカ留学に興味が無いと言えば、それは嘘になる。

 ただ…俺には、まだやらなければならないことがあるのも事実だ。

「―――今は断る。俺には…いや、俺達には全国に行くという目標がある」

 そう答えることしか、俺にはできない。

 なのに、俺は何故か複雑な気持ちになる。

 迷う余地などある訳がないのに……

「本当にお前、意味分かってないな」

 跡部は、さも可笑しそうに苦笑した。

「何のことだ?」

 跡部がどうして笑っているのか、俺は全く理解できない。

 何か的外れな返答をしただろうか?

 自分の発言を思い返してみるが、そうとも思えなかった。

 眉間にしわを寄せて、首を傾げる俺を見て、更に跡部は笑う。

「さすが手塚と言うべきだな。テニス以外のことが、ここまで鈍いとは……」

「だから、何のことだ?」

 先程の不二といい、今の跡部といい…二人とも意味の分かりにくい発言が多すぎる。

 悪いとは言わないが、そのことに危険を感じているのも確かだ。

 触れられたくない核心を、避けて通れない……

 俺自身でも理解出来ていないこの心を、二人には見透かされているような気がする。

「仕方ないな、俺から言ってやるよ。感謝しろよ、大サービスだぜ?」

 にやっと笑いながら、跡部は俺に近付いてきた。

「意味が、分からないんだが?」

 無意識に後ずさり逃げようとするが、それより先に跡部に腕を掴まれ引き寄せられる。

 
 

「―――好きだと言ってるんだぜ?」

「?!」

 
 

 耳元で囁かれ、俺は硬直した。

 何を言われたのか、一瞬分からなかった。

「やっぱり分かってなかったな」

 そう言って跡部は、俺の腕を離す。

「……冗談もほどほどにしろ」

 冷静を装いながら、俺は跡部を睨み付ける

「男のお前に…しかも、お前に冗談でこんなこと言ったりするわけねぇだろ?」

「冗談じゃないなら、尚更性質が悪い……」

 そう、まだ冗談のほうが良い。

「あぁ?ったく、本当に素直じゃねーな。お前も、俺が好きなんだから問題ねぇだろ」

 跡部はそう言い切って、にやっと笑い俺を見つめる。

 その瞳を見つめ返しながら、俺は自分自身に問いかけた。

 俺が跡部を好き…?

 ―――確かに、そうだ。

 素直にそう思えたのは、跡部の言葉に嘘が無いと何処かで知っているからだ。

 だとすれば、今までの自分自身の不可解な気持ちも理解できる。

 認めたくない、否定したかったのは、自分自身の心だと……

 
 

 『だって手塚は跡部が好きなんだろ?』

 
 

 不二の言葉は正解だった。

 思わず苦笑した俺を見て、跡部は全てを理解したようだ。

「俺の言葉が、少しは分かったか?」

「あぁ、分かった」

「それなら、アメリカ行きは承諾だな?」

 問いかける跡部に、俺は首を横に振る。

「それでも、俺の返事は変わらない。俺達は、全国を目指す。だが……」

「だが?」

 俺は一呼吸おいて、真っ直ぐに跡部を見つめながら告げた。

「卒業後、俺は必ずアメリカへ行く。頂点を目指すために―――」

 そう、俺は頂点を目指す。

 跡部がいても、もちろん跡部がいなくても……

「フッ…手塚らしいな」

 そう呟いた跡部に、俺は不意に唇を奪われた。

「!!」

 驚いて睨み付ける俺に、跡部は笑いかける。

「……頂点に立つのは俺だけどな?」

「やってみなければ分からない」

「上等だ」

 そう答えた跡部は、嬉しそうに笑っていた。

 尊大なまでな自信と、それに伴うだけの実力があることを俺は知っている。

 だからこそ、俺は負ける訳にはいかない。

 跡部にだからこそ、負けられない。

 
 
 

 そう、今ここで新たに誓う

 共に頂点を目指すことを…

 そして、必ず頂点に立つことを―――

 
 

 〜Fin〜

   

反省文。

初めて書き始めたSSがコレだったりします・・・(汗)
この頃は、コミックもほとんど持っていないし、WJは読んだこと無いし、アニプリも見てないし・・・
と、不届きな態度で書いてました(オイ)おかげで、跡部の性格が・・・偏ってる気がする。
テニプリの情報源は、全てチャットだったんです。。。(ぇ)あ、今もか(爆)

跡部と手塚は似たもの同士ってカンジに俺は思ってるんですよね・・・
でも、結局は跡部のほうが強いですね(ぇ)テニスのことじゃないですよ?(笑顔/オイ)
俺の中では、跡部と手塚ならテニスの実力は一緒。精神的にも、一緒くらいのタフさはあると思ってるんですが・・・
精神的に跡部のほうが強いカンジです。微妙にナルシーだし(爆)
でも、結構甘えたがりな気もしないでもないかなぁ?
次回の跡塚は・・・跡部、我が侭し放題の予定(笑)