『黙して語らず瞳で落とせ −Ver.2−』
 
 

  その強さが憧れ

  その冷たさが憧れ

  その温かさが憧れ

  貴方の全てが……

  俺の憧れるべき人

 
 
 

 何故かそうしなければいけない気がして、乾は窓に近寄った。

「……?」

 外に視線をおろすと、中庭に見知った姿を見つける。

 しかし、木陰にいたその人物に乾は目を疑った。

「手塚?!」

 何も手塚に驚いたわけではない。

 当然の事ながら、手塚を見かけたくらいで乾が驚くことはない。

 正しく言うと、手塚が子猫と遊んでいることに驚いたのだ。

 自分の目を少し疑いながらも、乾はその光景をしばらく観察することにした。

 そうとは知らない手塚は、楽しそうに子猫と遊んでいる。

「……手塚初笑いだな。面白いデータが取れそうだ」

 普段から滅多に表情を変えない手塚が、微笑みながら子猫と遊んでいるという、 

 世にも奇妙な光景を目の当たりにし、乾は自然と笑ってしまった。

 この出来事を境に、乾の手塚を見る目が完璧に変わった。

 簡単に言えば、手塚の微笑みに落とされた……

 そう、恋に落ちたのだ。

 
 
 

 それから数日後、部室に向かう途中の手塚は不二と一緒になった。

「不二、少し聞きたいことがあるんだが……」

「ん?何?」

 部室に向かいながら、手塚は最近気になっていたことを、躊躇いがちに不二に訊ねる。

「―――最近、妙に乾から視線を感じるんだが…俺の気のせいだろうか?」

「気のせいじゃないと思うけど?」

 乾の気持ちに気付いている不二は、手塚の問いかけに即答した。

 しかし、これが不二でなくても最近の乾と手塚を知るものなら、即答したはずだ。

 最近の乾は暇さえあれば手塚を視線で追い、後を追っているのだ。

(注意:ストーカーまがい、むしろストーカーだというツッコミは不可です)

「……そう、か?何か用事だろうか……」

「いや、用事ならとっくに言ってるんじゃないかな?」

「確かに……。では、データの収集か……?」

(注意:こんなに鈍感ってありえない!というツッコミも不可)

 首を傾げる手塚を見て、不二の悪戯心が芽生えた。

(さすが手塚……あんなに好きだ!って、視線を送られても全然気付いてないなんて。

どうしようかな―――。乾に一つ貸しを作るのも面白いかな……?)

「ねぇ、手塚。今日も自主練やるよね?付き合っても良い?」

「何だ?急に……」

 あからさまに意味深な微笑を浮かべている不二に、手塚は眉をひそめる。

 今までの経験上、こういう時の不二は何かを企んでいると考えて間違い無いのだ。

「ん?何でもいいじゃない。絶対に、悪いようにはしないからさ」

 更に笑顔で言い募られれば、選択の余地は無い。

 だが、ここで無駄な抵抗をするのが、手塚らしいと言えば手塚らしい。

「俺は構わないが、遅くなるぞ?」

「あぁ、大丈夫。差し障りはないから」

 そう言われれば、さすがの手塚も断る理由が無くなる。

「……分かった」

「ありがとう、手塚」

 にっこりと微笑んだ不二は、どこか楽しそうだ。

 そんな不二の様子を見て、手塚は密かに溜め息をついた。

 
 
 

 部活後のミーティングも無事に終了し、

手塚は顧問の竜崎にコートの使用許可を得てから部室に戻って来る。

 その手塚に、帰り支度を済ませた不二が声を掛けた。

「あ、手塚!携帯に家からメールが入っていて、今日は早く帰ってきて欲しいらしいんだ。

だから、自主練付き合えないや、ごめんね」

「構わないが……至急の用事かもしれない、早く帰ったほうがいい」

「ありがとう!それで、お詫びというわけじゃないんだけど、代役用意しておいたからさ」

 にっこり微笑んで、不二は後ろを振り返る。

「代役?」

 怪訝そうに首を傾げながら、手塚は不二の視線を辿る。

 微妙に上がる視線に、代役が誰なのか手塚はなんとなく見当がついていた。

「どうも」

 二人の視線の先に立つのは、スクエアの眼鏡をかけた長身の部員。

「乾、か……」

「君の相手には最適だろ?」

 微笑む不二に、手塚は溜め息をつく。

「……確信犯だな」

「何のことかな?じゃあ、僕は早く帰らないといけないから、お先に!また明日ね」

 満足そうな笑顔で、不二は悠々と部室を出て行った。

 その後姿を軽く睨み付けていた手塚に、乾が近付く。

「手塚、自主練しないのか?」

「もちろん行なう」

「じゃあ始めよう。今日の手塚の調子から考えるとサーブ&ボレーを重点的にやったほうが良い」

 手にしていたノートをめくり確認すると、乾は手塚にそう告げた。

「あぁ、分かった」

 軽く頷いて、手塚はラケットを手に持ちコートに向かう。

 そして最近のパターンの様に、乾は手塚の後ろについて行く。

 コートの入り口で、手塚はフト立ち止まり振り返った。

「手塚、どうした?」

「いや、一つ聞きたいことがあるのだが……」

「なんだい?」

 見上げる視線を乾は受けとめる。

「何か俺に言いたい事でもあるのか?」

「??あぁ、いや言いたいことは無いよ。別にね……」

 そうサラリと言う乾に、手塚は眉をひそめた。

「最近、お前の視線を妙に感じる。俺の気のせいかとも思ったが、そうでは無いらしい。

それならば、何か言いたい事があるかデータの収集だと思ったのだが?」

「言いたいことは無いよ。データの収集なのは間違い無いけどね……」

「…違うのか?」

(注意:手塚は素直すぎる…という危機感を持つのは可)

 見返す手塚の瞳を、更に乾は面白そうに見つめ返す。

 手塚は乾の言葉をしばらく待っていたが、口を開こうとはしない。

 それよりも乾にじっーと見つめられ、

 手塚は居心地の悪さを感じ、自分から伏目がちに視線を逸らした。

 
 

 可愛い―――

 
 

乾は無意識に手を延ばし、手塚の頭をポンポンと軽く叩いた。

「な?!」

 手塚の驚いた声に、乾は自分の行動を自覚する。

「……あ、すまない」

 乾は一応謝罪するものの、手塚の睨みつける視線は逸らされることは無かった。

「何のつもりだ?」

「別に。カワイイと思ったから撫でただけだよ」

「かわいい……?」

 悪びれもせず答える乾のせいで、手塚の眉間のしわは更に深くなる。

「そう。最近手塚がカワイイことに気付いてね……」

「―――俺に言う言葉では無いぞ」

「そう?間違ったことは言ってないと思うけど。データ収集はしっかりしたつもりだし」

「充分に間違ってる……」

 ため息と同時に吐き出した言葉は、あっけなく乾に否定される。

「まぁ、他の人が見たら違うかもしれないけど、俺から見れば可愛いんだよ」

(注意:視力が悪い、実は眼鏡が割れているのでは?というツッコミは不可です)

「可愛くない……」

 照れたのか、手塚は頬を紅潮させながら乾を睨んだ。

「そういうのも、可愛いって知らないんだ?」

「?!」

「可愛いよ」

 そう満面の笑みで囁かれて、手塚は乾からフイッと顔をそむける。

「―――さっさと練習を始めるぞ」

「…グラウンド走らなくていいんだ?」

「走りたいなら、勝手に走って来い……」

「遠慮しておく」

 答えた乾は、まだ眉間にしわを寄せている手塚を抱きしめた。

 
 
 

 この場を不二が見ていれば、間違い無く言っただろう。

 手塚国光、乾貞治に陥落―――

(注意:ストーカーを警察に突き出さないでいいのか?という疑問、むしろ正論は無し)

 
 

〜Fin〜

   

反省文。

ツッコミをいれるのと、登場人物の差で・・・ここまで違うとは。。。(笑)
これを書くきっかけをくれた、我が友人・彰に感謝(爆)

しかし、乾と手塚だと絶対的に手塚が弱い立場に思えるのは何故だろう・・・?
好みの問題も含めてだろうけど。。。て、好みなんですけど(オイ)
テニス以外というか、精神的に彼は弱そうなイメージが何故か。。。あったりします(苦笑)
だから、俺は手塚が受けだと思うんでしょうね(笑)
その点、乾は何事にもぬかりなく・・・ってカンジですからねぇ。。。
『越後屋(乾)、お主も悪よのう。。。?』って何故か言いたくなる(ぇ)