『渇愛』
 
 

  恋してはいけない人

  分かっているのに、心は求め続ける

  叶わぬ願いと自分に言い聞かせ

  記憶の闇に、この想いは封じ込めよう

 
 
 

「あ?もう一回言ってみろ?」

 屋上への扉を少し開けた途端聞こえてきたのは、聞きなれた跡部の声だった。

「なんや……?」

 思わず扉を開けることを躊躇すると、その声は更に不機嫌になる。

「この間もそう言ったよな?しかも、今回は個人的な試合だ?俺と逢うより大事な試合なのかよ?

その個人的な試合とやらは……」

 相手の声が聞こえないところを考えると、誰かと電話をしているのだろう。

 静かに扉を開けると、フェンスに寄りかかっている跡部の後ろ姿が視界に入った。

 案の定、跡部は電話に夢中で俺に気付く様子も無い。

 会話の内容で、俺は電話の相手が誰だか想像がついた。

 跡部が執着しているのは、アイツだけだ。

「は?だから、それはお前がしなきゃいけねぇ試合なのかよ?俺との約束を破ってまで?って、おい……チッ」

 苛立たしそうに舌打ちして、跡部は電話を降ろす。

「なんや、振られたんか?」

 そんな跡部に、俺はからかい口調で話しかけた。

「あ?うるせぇよ……」

 振りかえって近づいてくる俺の姿を見とめると、跡部は不機嫌そうに睨みつける。

「アイツやろ?」

「お前には関係ないだろ」

 ポケットに携帯をしまいながら冷たく言い放つ跡部に、思わず苦笑する。

「それ以外のことで、跡部が不機嫌になるなんて有り得へんからな……」

「黙れよ」

 ふてくされたように跡部は視線をそらして、フェンスに寄りかかった。

 その隣でフェンスに寄りかかり、俺は跡部の顔を覗きこむように話しかける。

「どないしたん?」

「―――別に、どうもしねぇよ」

「今回も、逢われへんようになったんやろ?」

「……試合だって言うんだから、仕方ねぇだろ。ヤツも忙しいからな」

 少し寂しそうに呟いた跡部を、俺は抱きしめたい衝動にかられる。

 跡部がこんな表情をするのはアイツのせいだ。

 他のことでは、決してこんな表情はしない。

 跡部の行動全てが、アイツによって左右されている。

 その事実が残念というよりも悔しいが、それを甘受しようと決めていた。

 跡部の特別が、アイツだと知ったあの日から―――

 だから、俺は笑うことしか出来なかった。

「ま、跡部と同じ位か…もしくは、それ以上に忙しいかもしれへんな。不器用そうやし」

「あ?不器用?」

 怪訝そうな視線を投げかけられ、手のひらをヒラヒラさせながら訂正する。

「せや…あぁ、悪い意味ちゃうで?ええ意味でや」

「なんだ?それ―――」

 呆れた様に俺を見る跡部のポケットで携帯が鳴った。

 面倒くさそうに携帯を取り出して、着信者も確認せずに跡部は電話にでる。

「はい……あ?授業じゃなかったのか?」

 不機嫌そうに答えてはいるが、口の端がほころんでいるのを俺は見逃さなかった。

 気付かれないように小さく溜め息をついて、跡部から少し離れたフェンスにより掛かりながら座り込む。

 掛かってきた電話は、間違い無くアイツからだろう。

 跡部をチラッと見ると、いつもの跡部にすっかり戻っている。

「自習?いいのかよ……あ?俺はいいんだよ。今日は、元々授業ねぇんだからよ」

 改めて実感するアイツの影響の大きさに、俺は深くため息をついた。

 元々諦めていたのだから今更……と自分でも思うが、理屈と心は別だ。

「やっかいやな……」

 自嘲するように呟いて、空を見上げる。

 無限に広がる青色の眩しさに、思わず目を細めて陽射しを遮ろうと手をかざした。

 その手をみてふと気付く。

 無いものねだりなのは、幼い頃に雲を掴もうとしたあの気持ちにとても似ている。

 どんなに手を伸ばしたところで、空の彼方にある雲に手が届くことは無い。

 俺はかざした手を空に浮かぶ雲に重ね、手を握ってみた。

 成長した今でも結果は同じコトで、いくら掴もうと思っても出来るわけが無い。

 しかし、何となく楽しくて、俺は何回か手を開いたり握ったりしてみる。

「何やってんだ?」

 電話が終わったのか、呆れたような声で話しかけながら近寄る跡部に、ニッと笑いながら答えた。

「ん?昔やらへんかったか?雲、掴んでみたいって……」

「あ?やらねぇよ」

 未だに手をかざしたままの俺を見下ろしながら、跡部は軽く笑う。

「もしや、俺だけやったんか?」

「さぁ?少なくとも、俺はやってねえ」

「……まぁ、ええわ。―――仲直り、したん?」

 わざわざ聞かなくても分かるが、手を下ろしながら一応尋ねる。

「別にケンカなんかしてねぇよ」

 即座に否定する跡部に、俺は苦笑した。

「あんまかわらんやんか……」

「全然違ぇだろ」

「俺にとっては、かわらへんのや。跡部が機嫌悪いんは、どっちでも一緒やしな」

「あ?」

 睨みつけてきた跡部を、俺は笑いながら誤魔化す。

「まぁまぁ…それで、どうなん?」

「……絶対に埋め合わせはするって、向こうから言ってきやがったから、今回は譲歩してやった」

 どことなく嬉しそうに答える跡部に、俺はにやにや笑いかけた。

「珍しいやん?跡部が譲歩するやなんて……」

「あ?俺を何だと思ってんだ?」

 不機嫌そうに眉を顰める跡部に、冗談めかして答える。

「跡部様」

「言ってろ……。俺はもう、戻るぜ。じゃーな」

 冷笑した跡部はさっさと扉に向かって歩き出した。

「ほな、部活でな」

 俺の声に、跡部は振りかえりもせず軽く手を上げる。

 その後ろ姿を、手を振りながら見送る。

 跡部の姿が扉の向こうに消える瞬間、その姿に手を重ねて俺は手を握りしめてみた。

 もちろん握った手は、空を切るだけだ。

「アホやな、俺……」

 自分の行動に、自分自身でも笑えてくる。

 何も掴めなかった手を、俺は目の前で広げてじっと見つめてみた。

 こんなことをしても、手に入るわけが無い。

 そんなことは充分に分かっている。

 でも、こうやって無理なことだと実感しておかなければ、俺は忘れてしまいそうになる。

 俺が自分自身で望んで、既に諦めたということを……

「せやから、好きになったらあかん……」

 自分に言い聞かせるように呟いて、また空を見上げる。

 相変わらずの眩しさに、俺はゆっくりと瞳を閉じた。

 
 
 

 本当は……

 諦めることしか思いつかないほど

 唯一人が欲しいだけだった―――

 
 
 

〜Fin〜

   

反省文。

これは。。。題名と内容が非常に不一致だと自覚はあるんですけど・・・(苦笑)
何故か変えなかった俺は一体。。。(何)
ヒョーゴ君へ差し上げたものですが、いまだに微妙に後悔中。
こんなのしか書けない己をまた呪います。。。(合掌/ぇ)

シリアスって予定で書いていたのに、少々ほのぼの系になってしまったのは。。。忍足のせいです(オイ)
あそこで空に手を伸ばさなければ、こんな展開にはならなかったはず・・・
予定?では、屋上での密会(違)で跡部が浮。。。(自主規制)
でも、忍足が気の毒なカンジになってしまったか??不二と一緒で忍足も極端です。俺的に(笑)
今回の忍足も白忍足?ってカンジですかね・・・でも、黒忍足も良いはず(ぇ)
是非とも今度は、ダークエンジェル??な忍足を書いて、シリアスストーリにしてみせる(意味不明)